けずるむし歯をマイクロスコープで見極める
◆マイクロスコープを使用してむし歯を見える状態で削る
当院でのむし歯の診断は目で診る「視診」とX線写真の「画像診断」を総合的に用いてむし歯のレベルを診断します。特に歯と歯の間に生じる発生する「隣接面う蝕」に関しては視診だけでの判断はかなり困難であり、画像診断が有効とされています。
「視診」のレベルを向上するには、歯を拡大してみることができるマイクロスコープが有用です。肉眼で狭くて暗いお口の中を見るにはどうしても限界があり、見えないところは感覚や経験値に頼らざるを得ない場面がでてきてしまいます。それでは治療方法にばらつきが生じてしまいます。マイクロスコープを使用しながら、きちんと削るべきところを判断し、残すことができる歯は保存していきながら治療を進めていきます。
◆レントゲン写真からむし歯をみつける
むし歯の診査診断には「画像診断」も重要です。一般歯科治療の場合には多くはお口の全体を撮影するパノラマレントゲン写真が用いられますが、特に奥歯は画像の重なりが生じ、深く進行したむし歯は見つけることができるのですが、隣接面(歯と歯の間)にできたむし歯は見つけることが困難です。
隣接面のむし歯を診断するにはデンタル写真(パノラマより小さなレントゲン写真)が有効です。これらを用いて進行中のおそれがあるむし歯の有無も評価していきます。
マイクロスコープにより「視診」のレベルを向上し、レントゲン写真の撮影方法の工夫により「画像診断」でさらに情報を増やし、総合的にお口の中の問題点を見極めていきます。
◆むし歯の治療方法を診断する
むし歯といっても大きさ(深さ)は様々です。当院では上記に示す診断基準に基づきむし歯のひろがり具合を判断しています。そしてむし歯の大きさによって治療法を定めています。
◯State0,1
歯の表面の性状が悪くならないように、フォローを行なっていきます。歯の表面が凸凹が生じることのないよう、毎日の適切なブラッシングやプロフェッショナルケアを定期的に実施します。フッ化物の応用も有効的です。ホームケアでも使用できるフッ化物入りの歯磨き粉も効果があります。歯科医院ではフッ化物入りの歯磨き粉よりも高濃度なフッ化物塗布が可能ですので、さらに歯の表面を強化することができます。
◯State2
0, 1 と比較するとよりエナメル質の内側に細菌の侵入が認められる状態です。エナメル質内に細菌繁殖をとどめることができれば歯を削る必要はありません。ただし、健全な歯の表面と比較するとすでに細菌の侵入が認められるため、注意が必要です。この状態のむし歯では痛みは出現しませんので、自覚症状はありません。むし歯の進行を止めることができるように、ブラッシング習慣を身に付け、口腔内環境を改善する必要があります。
当院ではState1, 2のむし歯であればまずは口腔内の環境整備をするために歯科衛生士による北欧式予防管理型治療を開始します。(歯周病予防初期治療)むし歯を削らずに大きくならないように管理をしていくこと自体がむし歯の治療となります。
◯State3
エナメル象牙境まで細菌侵入を認める状態ですが、まだ象牙質まで細菌感染が明らかに及んでいるとは断言できない状況です。ここが歯を削って治すか、削らずにむし歯を管理していくかのボーダーラインと言えます。口腔内環境を整えてむし歯を管理していけるのか、もしくは進行するリスクが回避できないのであれば歯を削る治療を選択しなくてはいけません。
◯State4
エナメル質と象牙質の境界を超えて、より内部の象牙質にまで細菌侵入が認められる状態です。象牙質に細菌が侵入したことで、むし歯の進行速度ははやまります。象牙質内のむし歯の進行はエナメル質内の進行と比較すると約2倍(もしくは口腔内環境によっては以上)進行スピードがはやいと言われています。この状態のむし歯でも多くの場合痛みなどの自覚症状はありません。無症候性にむし歯が進行している状態であると言えます。見た目にはう窩(むし歯の穴)は見えなくても、多くの場合歯と歯の間(隣接面)から細菌が象牙質まで侵入し、う窩をつくっているのです。
この状態ではフッ化物を塗布したところで残念ながら効果はなく、細菌感染した歯を削らなければなりません。
歯を削る際には
①可能な限り健康な歯を残すこと
②細菌を取り残さないこと
③細菌侵入のないように充填(つめる)すること
④ブラッシングしやすい形にして清掃環境を整えることが重要です。
充填する治療に関しては1部位1回で処置はおわりますが、出血や歯肉の炎症がある場合には充填ができないので、充填処置の前には歯科衛生士による北欧式予防管理型治療を行い、歯の周囲の環境を整えた上で充填処置に進みます。歯肉の状態が改善されるには少なくとも2週間以上はかかります。
◯State5
State4よりもさらに象牙質の内側に細菌感染を認めているむし歯です。歯髄に近接した部位まで細菌感染が及んでおり、象牙質の内側1/2までむし歯が広がっている状態です。この状態では細菌の一部はすでに歯髄(歯の神経)まで到達している可能性が考えられます。将来的に歯髄を除去する治療をする必要があるかもしれません。
歯髄に近接したう蝕が存在する場合には、感染した象牙質を理想的に除去しようとすると、歯髄の一部が露出してしまい(露髄)、残すことができたはずの歯髄を治療により感染させてしまう恐れがあります。このような場合にはステップワイズ法(むし歯治療の2回法)を選択する場合もあります。この治療方法は、むし歯をとって詰めるという治療を2回行う方法です。この治療方法の場合には1回目の治療から約半年後に再治療を行いますので、少なくとも治療が終了するまで約半年ほどかかります。
明らかに歯髄まで影響が生じていると判断できる場合は早急に根管治療を行う必要があります。この場合には様子をみても歯の状態は悪くなるばかりです。細菌の数がみるみるうちに増えて炎症状態が強まり、治療後の予後も悪くなってしまいます。
強い痛みを感じていたが、痛みが気づいたら良くなっていたという場合もありますが、自己判断は禁物です。場合によっては生きていた歯髄が壊死し、痛みを感じなくなっている状態かもしれません。いずれにしても、むし歯が深く進行している状態ですので早期の診査診断が必要です。
<ステップワイズ法>
ステップワイズ法とはむし歯が深く進行しており、歯髄の一部が感染している可能性も否定できないが、現時点では歯髄を抜かずに保存できる可能性がある場合に適応になるむし歯の治療方法です。
明らかに歯髄まで細菌感染が及んでいると診断される場合にはこの治療方法は適応になりません。この治療方法が適応になるむし歯では、感染した象牙質を理想的に除去しようとすると歯髄の一部が露出してしまい(露髄)、残すことができたはずの歯髄を治療により感染させてしまう恐れがあります。
ですので、1回目のアプローチでは細菌感染が著しく細菌量が多いと思われる象牙質を可能な限り除去し、露髄が生じていないことを確認し、歯髄に一番近い部分には炎症を抑えるお薬をいれた状態でその上から歯科用コンポジットレジンにて一度完全に窩洞を封鎖します。その後少なくとも約半年間、治療した部位に痛みや問題が生じないかを経過観察していきます。しみる症状や痛みが生じる場合には、残念ですが歯髄まで細菌が到達していると診断できるので、歯髄は保存できずに根管治療に移行します。
特に痛みや問題が生じなかった場合には現時点では歯髄が保存できる状態であると診断できるので、半年後に再度封鎖していた歯科用コンポジットレジンとお薬を除去し、歯髄付近の残っている感染象牙質をさらに一層除去し、露髄していない状態が確認できたら再度歯科用コンポジットレジンで窩洞を封鎖していきます。
1回目の治療から2回目の治療まで半年待つには理由があります。なぜなら、お薬の効果を待つと同時に、人間の免疫反応で歯髄自体が細菌から逃れようとする反応を待っているのです。歯髄が姿を変化させ、細菌から遠ざかることで、半年後にはより深い部分までむし歯を取り除くできる可能性が高まるのです。1回目の治療で細菌の数を減らすことができれば、むし歯の進行を遅らせることが可能です。むし歯は急には進行しません。長い時間をかけて少なくとも年単位でむし歯が進行した結果です。ですので、待機時間の半年間で急激にむし歯が悪化するということはありません。むしろ悪化しないための待機時間です。
しかしながら、ステップワイズ法で全ての神経を保存できる治療法ではありません。少しでも歯髄を残せる可能性があるなら最善を尽くし治療をご希望の方にはおすすめできる治療方法です。歯髄を残すことが歯の延命であり、天然歯をいかすことができるのです。
◆むし歯を精密に詰める
歯を削る際には①可能な限り健康な歯を残すこと②細菌を取り残さないこと、③細菌侵入のないように充填(つめる)すること、④ブラッシングしやすい形にして清掃環境を整えることが重要です。
①可能な限り健康な歯を残すこと
歯を削る際にはダイヤモンドバーと呼ばれる切削器具を使用します。ダイヤモンドバーには様々な大きさや形があり、むし歯の状態によって使いわけて最適な道具で歯を切削します。保険で定められた器具で肉眼治療を行うと、どうしても健全な歯質と感染歯質を見分けるのが難しく、大きなダイヤモンドバーや手用器具で大まかに手探りの状態でむし歯を取り除く方法しかありません。
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いると、むし歯の歯を何十倍と拡大して術野を診ることができるので、むし歯の状態をより詳しく診ることができるのです。特殊なバーを用いれば、健全な歯質を可能な限り切削する量を最小限にし、むし歯のあるところだけを削り取り、充填することができます。
②細菌を取り残さないこと
マイクロスコープを用いることで、感染した象牙質と健全な歯質をきちんと直視し、見分けることが可能です。X線写真から「ここだろう」と憶測で歯を切削することなく、感染歯質にすみやかにアプローチすることが可能です。
また、感染した象牙質は高速回転で切削してしまうと削りすぎてしまう可能性もあるので、手用器具で少しずつ感染歯質を取り除くことも重要です。特にむし歯が歯髄に近接している可能性がある部分は慎重に象牙質を除去する必要があります。このような状況のむし歯にはステップワイズ法と呼ばれるむし歯の治療二回法が有効な場合もあります。むし歯の治療は歯髄を守るための治療です。象牙質に細菌感染を広げないことが歯髄を守るためには重要なことなのです。
③細菌侵入のないように充填(つめる)すること
健康歯質を可能な限り残し、むし歯を取り除いたら次のステップは細菌侵入のないように充填(つめる)していきます。口腔内の問題を引き起こしている細菌が術野に入り込んでしまうと、せっかく治療した歯にも将来的に問題が生じる可能性が高くなってしまいます。
また、口腔内は唾液もあり、湿潤状態です。むし歯の治療で用いる歯科用コンポジットレジンは清潔でかつ乾燥状態を実現することで歯との接着力を高めることが可能です。そのためには治療をする歯にラバーダムと呼ばれるシートを被せて、術野を治療するために最適な環境を整える必要があります。
ラバーダムを装着することでより精密にレジンを充填することが可能です。当院の精密むし歯治療では、強度ならびに審美性の高い歯科用コンポジットレジンを使用しております。症例にあわせて最適な材料を選択して治療にあたります。
④ブラッシングしやすい形にして清掃環境を整えること
歯と歯の間の隣接面う蝕の場合には治療後の隣接面形態を理想的なかたちに整える必要があります。むし歯ができた歴史を考えてみましょう。細菌が繁殖するのに絶好の場所だからむし歯ができるのです。ですから天然歯ですら清掃が行き届かず、細菌繁殖が進んでしまった結果むし歯が発生してしまいます。
歯科用コンポジットレジンはプラスチックですから、エナメル質よりプラークはつきやすい状態です。治療したところが将来的に再度むし歯にならないようにするには、歯とレジンの接着面の凹凸を限りなくなくすこと、そして歯間ブラシやフロスが通りやすく、清掃しやすい形態を作り上げることが大切です。
そのためには、特別な材料や道具をつかいこなしながら可能な限り隣接面の形態をスムーズに段差ができないように充填する必要があります。フロータイプの流動性のあるレジンを用いたり、ペースト状のレジンを用いたりと症例にあわせて適切な材料を選択します。充填後は研磨を行い、さらにスムーズな形態を実現します。
当院の精密むし歯治療の流れ
治療期間・回数
費用(※症状・状態によって金額は異なります。)
付随処置費用一覧(上記根管治療の際に必要に応じて費用が発生します。)
リスク・副作用
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治療前診断では見つからなかった歯の破折が治療中に発見されるような場合には歯を可能な限り保存する方法を検討しますが、将来的に抜歯になる場合があります。
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精密根管治療中にもニッケルチタンファイルが根管内で破折する場合があります。
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炎症が強い場合には初回の治療だけでは痛みが消失しない場合があります。その場合には鎮痛薬の併用や、次回の治療をはやめに再開する必要があります。